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固体表面上のクラスター堆積物の構造研究



クラスターサイエンスグループ
古賀 健司








 現在、固体表面上にナノメートルオーダーの大きさをもつクラスターを堆積させて出来るクラスター堆積物の構造的研究を始めている。ここでは、新たに作成した装置の概略を紹介する。
 バルクの結晶のサイズをどんどん小さくしてゆき、10nm以下のクラスター(または超微粒子)としたときに、物理的および構造的性質にどのような変化が起こるのかについて近年多くの研究が行われてきた。粒子サイズがナノメートルのオーダーになると、粒子を構成する全原子数に対する表面原子の割合が顕著に増加する。その割合は、5nmの粒子でおよそ40%、2nmの粒子で80%にもなり、粒径減少に伴って粒子表面が物性、構造に与える影響(表面効果)は増大してゆく。その一方で、粒子サイズの減少に伴って、電子のエネルギー準位の離散性が現れ、種々の物性に影響してくる(量子サイズ効果)。
 このようなクラスターを固体表面上に堆積させることによって、不連続な薄膜(グラニュラー膜)や巨視的な堆積物(グラニュラー固体)を形成させることができる。このようなグラニュラー物質の構造パラメーターとして次の量が考えられる。[1]構成粒子の平均サイズ、[2]構成粒子のパッキング密度、[3]粒子内部の結晶構造および結晶性(歪み量)、[4]モルフォロジー。この中で、パッキング密度を増加させることは、個々のクラスターの性質を良く保っている不連続膜から、多結晶性の連続膜への変化を意味する。もし、膜厚が十分厚い場合(ミクロンオーダー)には、上で議論した変化は、クラスターの巨視的な堆積物からバルクな多結晶への変化に相当する。
 われわれは、構造的見地からグラニュラー物質を調べることを目的としている。個々のクラスターの構造研究は古くから電子顕微鏡の独壇場であった。しかしながら、クラスターが互いにネットワークを構成しているような物質の場合は、統計平均量を調べることがむしろ重要となる。この点で、粉末X線回折法はその要求を十分満たすものである。この方法の特徴の主なものとして、次の2点があげられる。一回の測定で、構成粒子の平均粒径、結晶構造、平均静的歪み量、及び、熱振動による原子の平均2乗振幅などの物理量が定量決定できること。実験装置が簡単なため、高温、低温、高圧など特殊条件下での構造変化の定量測定が可能なこと。以上のような利点に注目し、今回、粉末X線回折装置とクラスタービーム生成・堆積装置との複合装置を作成した。
  
 写真1に装置の写真を、図1にその概略を示す。金属クラスターを生成させる場合、生成室内のルツボに原料金属を入れ、不活性ガス雰囲気で加熱する。金属の蒸気は不活性ガスによって冷却され、凝結(核生成)が起こり、数ナノメートルのクラスターへと成長する。これらの一部は、ノズルを通して堆積室へ圧力差を利用して引き込まれる。堆積室へと導かれたクラスターは、延長線上にある固体基板へと付着される。堆積中、基板温度は室温から液体窒素温度まで自由に設定可能である。堆積が終わり試料が出来上がると、真空を破らずにこれをX線回折計の回転中心へと移動させる。外部から試料へX線を入射させて、試料から散乱されたX線を検出することで、グラニュラー物質の構造計測を行う。クラスタービーム中の平均粒径は、ルツボの温度、不活性ガスの圧力、ノズルとルツボ間の距離を変化させることで制御される。基板の温度制御は、X線回折による構造計測においても使用でき、室温から液体窒素温度までの構造の温度変化を測定することができる。この装置の特徴として、クラスターの生成、堆積、構造計測まで、試料を真空中及び低温に保ちながら行える点にある。
 グラニュラー物質を作成する部分では、そのパッキング密度をある程度自由にコントロールできるようになっている。個々のクラスターの特徴を良く保存している様な堆積物を生成したいときは、生成室と堆積室との圧力差を小さくし、基板は低温に保っておく。基板へのクラスターの衝突速度は遅く、付着と同時に冷却されるので、個々のクラスターは気相での形状を保ち、互いに融合しない。一方、圧力差を大きくし基板温度も室温にすると、高速で表面へ衝突したクラスターは変形し、表面へ強力に密着される。さらに次々と高速でクラスターが衝突して来るので、堆積物のパッキング密度は、クラスター間の融合も手伝って非常に高いものとなる。ここでは、気相での個々のクラスターの性格は失われ、バルクとしての性質が現れてくる。  このように、クラスター堆積物のパッキング密度をさまざまに変化させることによる構造遷移の過程を詳細に調べることを目指している。