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      液体のクラスター構造

                 クラスターサイエンスグループ

                         脇坂 昭弘

 液体状態は分子間の距離が短く、しかも分子が自由に配向を変えることができるため、種々の分子間相互作用によってミクロ構造体(クラスター)が形成されやすい状態といえる。とりわけ水溶液中には、水分子間の水素結合相互作用、水と有機化合物との疎水性相互作用、イオン間の静電的相互作用等が存在し、クラスターが容易に形成される。また、水分子クラスターは我々の環境、生命、生活と密接な関係を持っており、クラスター構造との相関に深い関心が集まっている。

 液体中のクラスターは活発な熱運動によって常に隣接する分子と衝突を繰り返し、分子の交換や結合、解裂を行っているため、一つのクラスターが同じ形をとどめている寿命は一兆分の一秒程度で非常に短い。しかし、熱平衡状態にある溶液全体の中でのクラスターの分布は定常状態にあり、ある瞬間における溶液中のクラスターのサイズ分布がわかれば、溶液のミクロ構造に関する分子レベルの情報が得られる。

 溶液中のクラスターのサイズ分布は溶液の一部である微小な液滴を断熱膨張することによって測定される。内径50ミクロン程度のノズルから真空中に液体を噴射すると霧状の液滴が生成し、この液滴をさらに断熱膨張させることによって、液滴はクラスターに分解する。得られたクラスターを電子イオン化し質量分析計によって分析する。液滴の状態では表面よりもバルクに存在する分子数が圧倒的に多く、バルクのクラスター分布は定常状態にあるといえる。液滴が断熱膨張し表面張力で液滴を保持することができなくなった瞬間に、液滴は多数のクラスターへ分解する。この膨張過程を経て取り出されたクラスターは液滴の崩壊直前に相互作用を持っていた分子集団に相当するので、この方法によって溶液中のある瞬間におけるクラスターのサイズ分布(質量スペクトル)が測定される。      (図 水クラスター分析装置)

 クラスターサイエンスグループでは、この方法を用いて溶液中の種々の現象とミクロ構造との関係を解明しつつある。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル等の有機溶媒と水とはいづれも任意の割合で混ざり合い、均一な液体となる。これらの混合溶媒中でのハロゲン化炭化水素の加水分解速度は混合溶媒中の水の分子数の割合が80%以下(領域A)ではほとんど反応しないのに対し、80%以上(領域B)では急激に反応速度が大きくなる。これらの混合溶液のミクロ構造を本方法で調べると、領域Aではハロゲン化炭化水素の周囲に水分子がほとんど存在せず、一方領域Bではその水分子数が急激に増加することが明らかになった。このように我々は、液体のミクロ構造、即ちクラスター構造を調べることにより、溶液中の化学反応性の研究を新たに展開しようとしている。さらに、物質の溶解、イオン化、再結晶化等、溶液中の“不思議”な現象を理解するために、クラスターレベルの協同現象の発見を目指している。

        液体中に存在するクラスターの質量分析