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■成果

(1)ダイナミッククラスター特性解明のための実験的アプローチ

(a)気相でのクラスターの基本的特性 

クラスター自身の基本的な特性は、互いの干渉がない気相で調べることができる。しかし、クラスターが原子・分子と大きく異なる点は、特定のサイズ(構成原子・分子数)のものを選択的に作製する手法がない点である。つまり、クラスターはそのサイズが広い範囲に分布して生成するので、特定のものの数は非常に少なくなる。一方スペクトル情報は、サイズが異なったものが明確に区別できるとは限らない。従って、特定クラスターを観測するには、高感度で、異なるサイズのものを明確に区別できる計測手法が必要となる。クラスターの電子基底状態での構造に関する情報は、赤外領域のスペクトルに反映されるので、この領域のスペクトルが測定できるような手法の開発を行っている。紫外・可視領域に吸収をもつクラスターは、強いレーザー光を当てるとイオン化する(多光子イオン化)。イオンは質量分析器で質量を選別して高感度で検出できるので、赤外光レーザーと紫外・可視のレーザーを組み合わせ、紫外・可視レーザーの波長はクラスターの吸収位置に固定し、赤外レーザーの波長を掃引し、クラスターの振動数と共鳴すると、イオン化されるクラスターの数が減少する。従って、赤外光の波長を掃引しながらイオン信号強度を観測すると、吸収がある場合には信号が減少する。このようにして、特定のサイズのクラスターの赤外スペクトルが、高感度で測定できる。当グループで開発した装置(図1)を用いて、アミノ基(NH2)をもつアニリン分子と種々の分子(Ar, CH4, N2, CHF3, CO)とのクラスターの N-H 伸縮振動のスペクトルを観測したところ、図2に示すようにほとんど吸収位置はシフトしないことを見出した。このスペクトルから、これらの分子がアニリン分子とクラスターを作る場合には、アミノ基と結びつくのではなく、むしろベンゼン環につくことが判明した。

 特定のサイズのクラスターの選別は、クラスターをイオン化すれば可能である。イオンを静磁場中におくと、その質量と電荷で決まる周波数で円運動を行う。つまりクラスターイオンをトラップできる。もちろんこのようにしてトラップしたクラスターの数はそれほど多くはできない。それは各クラスターが電荷をもつため、クーロン反発力によりある程度以上は互いに近づけないからである。しかし高感度で検出できれば、サイズ選別したクラスターの反応性などを調べることができる。原子には同位体が存在するので、クラスターが少し大きくなると、自然存在比での同位体の存在が質量スペクトルを複雑にする。これをきちんと識別するには、分解能が高い装置が必要となる。イオンサイクロトロン共鳴装置と開発したクラスター生成装置を結合して、クラスター特性のサイズ依存性などを調べる研究も開始している。

一方、クラスターに特有の(特にあまり強くない力で結びついているクラスターの場合)低波数の振動モードに関する情報は、遠赤外もしくはサブミリ波領域に現れる。この領域のスペクトルを直接観測する手法を、目下精力的に開発している。これにより、クラスター特有の性質がどのようなものか、それがクラスターサイズによりどのように変化していくか明らかにしたい。

図1


図2