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分子モーターグループ


■目的

ミオシンは、ATPの化学エネルギーを利用してアクチン繊維の運動をひきおこすタンパク質であるが、一分子でもモーターとして機能することから、ミオシンは化学エネルギーを力学エネルギーに変換する分子モーターであるといえる。この点で、ミオシンはたとえば自動車のエンジンと同様であるが、その他のいくつかの点では自動車エンジンとは全く異なった素晴らしい性能をもっている。たとえばミオシンは自動車のエンジンより大きさが10の22乗も小さいし、そもそも1分子で機能するだけでなく、エネルギー効率がよく、高温にならずに常温で作動するといった点があげられる。このように、ミオシン分子モーターは、いかなる人工モーターとも異なる動作原理をもつことは明らかであるが、それではミオシンが実際にどのような動作原理で化学エネルギーを力学エネルギーに変換するかはまだよくわかっていない。この問題の解決は、純粋な基礎科学としても非常に興味深いし、将来人工的な微小モーターを設計する際の重要な手がかりとなることも期待されている。そこでわれわれは、いろいろな新しい実験方法を用いてこの問題にアプローチしている。

■成果

(1)分子内屈曲モデル

現在有力な一つの考え方に、ミオシンモーターがアクチン線路と結合しながら、それ自身が屈曲変形することによって力が発生するのではないか、というものがある(図1左)。この説を分子内屈曲モデルとよぶ。この仮説を検証するために、われわれは遺伝子工学を用いた組換えミオシン発現技術と、顕微鏡下でミオシンによる運動を再構成する実験系を組み合わせた研究を行っている。それでは、具体的にはどうすれば分子内屈曲モデルを証明できるであろうか。

ひとつの例えとして、人間が歩く場合の速さを考えてみよう。股を開く角度が一定ならば、足の長さと歩幅は比例する。したがって、1分あたりの歩数が一定であれば、1分あたりの歩行距離(歩行速度)と足の長さは比例するはずである。この考えをミオシンに当てはめてみると、もし分子内屈曲モデルが正しければ、人間でいえば足に対応する部分(ネック領域とよぶ)の長さと運動速度が比例するはずである。逆に、ネック領域の長さと運動速度の間に比例関係があることがわかれば、分子内屈曲モデルの証明になるはずである。そこで、実際に様々な長さのネック領域のミオシンを作成し、その運動速度を顕微鏡下で観察したところ、両者の間に非常によい比例関係が認められた(図2)。この結果は、分子内屈曲モデルを強く支持するものであった。

現在はさらに一歩進んで、ATPの分解が、どのようにしてこうしたミオシン分子内の屈曲運動を起こすことができるのかを検討している。

(2)リニアモーターモデル

もう一つの考え方として、リニアモーター説がある。これはミオシン分子がアクチン上を滑って移動するというものである(図1右)。これだけ小さいと、タンパク分子は周囲の水分子の熱運動により激しく揺さぶられている。通常の機械のような動きを考えるわけにはいかない。つまりミオシンとアクチンは激しい揺らぎの中で付いたり離れたりしながら相互の位置がずれて行くと考えた方が自然である。それだけなら右向きに行く割合と左向きに行く割合が同じになって平均として止まったように見えるはずである。このモデルでは、ATPがミオシン頭部内で加水分解するときにミオシンの内部構造が変化し、ミオシンからアクチンに一部のエネルギーが渡され、アクチン表面状態(疎水性)がミオシンに対して非対称に変化するためにミオシンのドリフトが一方向に起こるものと考えている。このことを調べるために、私たちはマイクロ波誘電測定を用いることにより、ミオシン分子表面の水の動き易さの変化を調べ分子表面の疎水性の変化を調べてきた。その結果、想定されるミオシン内部変化を説明できるだけの分子表面の疎水性の変化を見いだした(図3)。これはアクチンとの結合の強さがATP存在時に弱まることを説明できるだけでなくリニアモーターモデルの根幹となる力が発生可能であることを示すものである。

図1 ミオシン力発生に関する現在有力な2つの仮説


図2 変異ミオシンにおけるネック領域の長さと運動速度の直線的関係


図3